異世界遊記 1話 光のメッセージ
2024年12月1日 00:00
(なんで、おれはこの世界を生きているのだろう?)
光太郎は、窓の外に目をやった。
光太郎が窓の外を見ると銀杏の木から黄色い葉が落ちていくのが見えた。
11月も終わりに近づき、コートを羽織った女性が風の中を身を縮めながら歩いている。
光太郎は静かにカーテンを閉め、オフィスチェアーに座り、肘をつき頭を抱えた。
(このまま人生が過ぎていくのか・・・・・・)
遮光カーテンは部屋を暗闇に包んだが、机の上にあったスマホの画面が青白く光り、光太郎の顔を照らした。
光太郎が学校に行かなくなってから2週間が経っていた。
アプリのロゴの上には2桁の数字があったが、光太郎はSNSを見ることもしなかった。
(あんなこと聞かなければ良かったのかな・・・・・・)
光太郎は古本屋の値札シールの貼ってあるセカフザの本を2,3ページほど読んだが、すぐに閉じて机の上に投げ置いた。
(高1でこんなに苦しいなら、この先どんだけ苦しいんだよ・・・・・・)
光太郎は机の上に突っ伏し、髪をくしゃくしゃにかきむしった。
(真由さん・・・・・・なんで・・・・・・)
スマホのバイブ音が暗く静かな部屋に響きわたった。ダイスケという文字が受話器のマークとともにスマホに表示されている。光太郎はスマホをタップして、耳に近づけた。
「おう。秋本、大丈夫か?」
ダイスケは休み始めてからずっと連絡をくれている。
「・・・・・・まあ」
光太郎は本音を押し殺したような声を出した。
「あんまり大丈夫そうじゃないな。授業のノートどうする?また、LINEで送ろっか?」
「・・・・・・ああ、ありがとう」
光太郎とダイスケは幼稚園の頃からの付き合いだったが、クラスが一緒になるのはこれが2度目だった。いつ仲が良くなったかは光太郎は思い出せずにいた。
ダイスケは、電話口で最近クラスであったことや、部活のことなんかを10分ぐらい話した。
「秋本、明日、転校生が来るらしいぞ。しかも2人。めっちゃ楽しみ」
光太郎にとっては、楽しみでも何でもなかった。学校に行くのが嫌なのは変わらない。
「あんまり、無理することないけど、学校に来れたら来いよ。お前がいた方が楽しいからさ」
光太郎はダイスケから伝えられるクラスの様子だけは知ることができた。別に自分がいなくてもいいのではないか。そんな気持ちにもなった。
通話を終えるとダイスケは授業のノートをLINEで送ってきた。エロ動画のリンクが張ってあり、メッセージ欄には『この動画、まじで抜ける。これでも見て、明日は元気に学校に来てな!』と書いてあった。
光太郎は、ため息をついたが、特にすることもなかったので、エロ動画のリンクをクリックした。
スマホの画面には、妖艶な女性が肌を露わにして、カメラ目線は上目遣いだった。
画面の中の男と女はお互いの本能をむき出しにしていく。いよいよ、挿入という場面になり、光太郎はズボンのジッパーを降ろすと同時に、画面が切り替わった。
画面の中では黄金色の仏像が光り輝いている。
「つらいか?」
金色の仏像は光太郎に問いかけた。
光太郎はボクサーパンツの中の熱く硬くなったものを触っていたが、すぐに血の気が引き、柔らかくなり、その力を失っていった。
「そなたに問うている」
(なんだこれは・・・・・・)
光太郎はスマホの画面を消そうと、閉じるボタンを何度もタップしたが、画面は消えなかった。
光り輝く仏像は光太郎に問い続けている。光太郎は電源を長押ししてシャットダウンしようとした。
「都合の悪いものは消す。それで、本当にそなたはしあわせか?」
光太郎は電源が消えるのを確認した。
(危ないサイトだった。ダイスケのやつ)
光太郎はスマホを机の上に放り投げた。再びスマホの画面が光り、光る仏像の画面に戻った。
「そなたは、しあわせか?」
電源を長押ししたが、今度は消えなかった。
「そなたは、なぜ、苦しんでいる」
光り輝く仏像は光太郎の返答を待っている。
「学校でいじめられてるんだよ!」
投げやりな口調で光太郎は画面に怒鳴った。
「いじめられているのか。そなたはどうしたいのだ」
光太郎は口ごもり、目を閉じた。スマホの画面は黄金の光を放ちつづけながら、静かな時間が流れている。
「この世界を変えたい。何の苦しみもない世界に」
「わかった。ならそなたにふさわしい世界を用意しよう」
黄金に光り輝く仏像は、画面の奥の方にフェードアウトしていった。
画面は、先ほど見た妖艶な女があえぎ声と共に、まさに挿入される場面に切り替わった。発情した男女が画面の中であえぎあっている。
光太郎には、先ほどの仏像とのやりとりが頭に残り、ほとばしるものが感じられず、ズボンのジッパーをあげ、動画を消した。
光太郎は、何も変わらない明日が来ることに絶望しか感じられなかった。
のそのそとベッドの上に上がり、甕棺に埋葬された骨のように、身体を屈曲させて寝転んだ。しばらく、その姿勢のまま2週間前のことを思い出し、これからの将来への絶望を感じると、目からは涙が流れ落ちていった。
光太郎はその姿勢のまま考えることに疲れて、眠りに落ちていった。
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