翌日、洛京の役人の選抜試験が行われた。試験会場は、シャカシャ寺院から40キロ離れた場所にあった。神龍帝国の各地から、若者たちが出世のために試験会場に集まった。シャカシャ寺院からも多くの学生が選抜試験に参加していた。
ゲンダイは、まったく試験の問題の意味もまったくわからず、答案用紙は白紙という状態で提出することになった。
「この世界のこと知らないのに、わかるわけないよ」
ゲンダイが口を真一文字にして試験会場を出たとき、サイパウが焼きレンガ造りの門に身体をあずけながら腕を組んで待ち構えていた。
サイパウは、ゲンダイの顔を見て結果を察したようだった。
「まあ、そんなもんさ」
サイパウは、門の前に落ちていたレンガの欠片を蹴り飛ばした。
2人は、歩いて試験会場を後にした。
土埃が風に舞っており、ゲンダイとサイパウは腕で顔を隠した。サイパウの話ではこの辺りは大昔は森だったが、戦争の資材として伐採されて、今は木々もちらほらと見えるだけの荒れ地になったのだそうだ。
「ゲンダイ、お前、この先どうするんだ?」
サイパウが腕で顔を隠しながら顔を向けて聞いた。ゲンダイはしばらく無言で土埃の中を歩いた。
ゲンダイは、自分がいた世界で、いじめられたことを思い出していた。別段、戻りたくないなと思ったが、40キロ先への移動手段が歩くしかないような世界は少し不便だなと思っていた。鉄道とか車とか、普段意識していなかったけれど、かなり便利だ。暖かいふわふわ布団、蛇口をひねれば水が出る、美味しい料理の数々、鮮やかな衣服、音楽、スポーツ、そういったことがゲンダイの頭の中にこびりついていた。試験中も元いた世界に戻ることばかりを考えていた。
「後もう少しでシャカシャ寺院だぞ」
サイパウはゲンダイの肩を叩いた。
2人はシャカシャ寺院に戻ると、クナルラ老師のいる本堂に行って報告した。
クナルラ老師はうんうんと頷き、水を水瓶からくんで飲むように勧めた。ゲンダイは、歩き疲れていたこともあり、がぶがぶと飲んだ。
「1週間後に選抜試験結果がでるから、寺院で作務をしておくように」
クナルラ老師は2人にそう告げると、金色の本尊に向かって座禅を組み直した。
2人は一礼をして宿舎の方に向かった。
ゲンダイは、2段ある寝台の下段にむしろをひいて横になった。サイパウが寝台の梯子を登ったとき、ドスンという音共に、木の間から埃が落ちてきた。ゲンダイは少し咳き込んだ。
「サイパウ・・・・・・」
「なんだよ、ゲンダイ」
サイパウはあくびと共に、寝台の上でもそもそとした。
「何でもない」
ゲンダイは身体を横に向けギュッと身体に力を入れた。
(本当にこの世界で生きるしかないのか)
ゲンダイは家に帰りたい衝動に駆られていたが、しばらくして、そのまま疲れて眠りについた。
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