短編 『あの黒板の向こうに』(短編) あの黒板の向こうに黒板に、俺は悪ふざけでこう書いた。『ひきこもりの作り方』文化研究会の部室。夜更け、誰もいない空間に、白いチョークの線がやけに滑らかだった。「面白いだろ? 皮肉と風刺、ってやつ」そう口に出して、自分で笑った。時刻は午後11時... 2025.08.04 短編
短編 『灰の翼と嘘つきの庭』(短編) 王国の東端にあるヴァレニアの谷――霧と花に包まれたその地では、古くから「真実の羽根」の伝説が語られてきた。 それは、幼き者が心から大切にしたものが、たった一度でも深く傷つけられたとき、灰色の羽根に変わって消えるという言い伝えだった。 羽根は... 2025.07.30 短編
短編 『赤き泉と少年王』(短編) 『赤き泉と少年王』 かつて、アズラーン王国の北端に、アリヤという小さな村があった。 その村にはひとつ、不思議な泉があると語られていた。「赤き泉」と呼ばれるその泉は、ひとたび覗き込めば、心に潜む欲望が形になって現れ、それに打ち勝てねば永遠に虜... 2025.07.26 短編
GoStory 短編17 病棟のプリン 「レミちゃん、最近冷たいんじゃないの?」病室のベッドで血圧を測られていた隆が締まっていく器具に目をやりながら言った。「そう?変わらないと思うけど」「いや、冷たくなった」隆は血圧を測り終えたレミの手首をつかんだ。「今夜、もう一度しよう。そした... 2025.04.04 GoStory短編
短編 短編16 長寿の原人 旅人がその村に着いたのは昼過ぎだった。暑い日差しが照りつけ、ツクツクボウシの鳴き声がハーモニーを奏でている。旅人は湧き水を水筒に入れ、ごくごくと流し込み、喉を動かした。「おー、この辺では見かけんな。旅か」イケメンの青年に声をかけられた。「は... 2025.03.10 短編
短編 短編15 分厚いファイルの中心で 空調の音が低くうなっている。河西は、薄暗い資料室で数冊のファイルを手にした。資料をパラパラとめくる。上司の命令で、膨大な量の資料整理を頼まれた。ここ先週からこの一室から出られない生活が続いている。資料整理とは聞こえがいいが、要するに、主要戦... 2025.03.08 短編
短編 短編14 ジビエのホルモン それは同僚の安井から聞いた焼き肉屋でのことだった。安井の話では、旬のジビエが食べられるという。調度、時間があったので、夜に、彼女とふたりでそのジビエの焼き肉店に行くことにしたのだ。のれんを手でよけて引き戸を開けると、中年の店員がいらっしゃい... 2025.03.07 短編
短編 短編13 蚊取り家族 大平家は大広間に集まって、家族団らんをしていた。大黒柱の権蔵がのしのしと歩いてきて、上座にドスンと座ると、家族は権蔵の方を見た。「夏菜、お茶くみはいいから座りなさい」長女の夏菜は、湯飲みを権蔵の前に置くと、下座に座った。「今日は、真剣に人類... 2025.03.06 短編
短編 短編12 カエルの恋 アオイドガエルはアカイドガエルと共に井戸を這い上がった。「見ろよ。オレたちの前に新しい世界が広がってるぜ」井戸を登り切るとアカイドガエルは言った。2匹のカエルはぴょんぴょんと跳ねていった。「見ろよ、あれがトンボが言ってた海って奴だぜ」山の中... 2025.03.05 短編
GoStory 短編11 日曜日よりの 日曜日よりの「うぐいすさん、あなたの番、来ましたよ」北雀うぐいすは、座席の横から、のそっと起きあがって、マイクに手を伸ばした。十八番の『日曜日よりの使者』のイントロが流れてきた。「このまま、どこか遠く、連れてって、くれないか~」半透明なドア... 2025.02.21 GoStory短編