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短編17 病棟のプリン

「レミちゃん、最近冷たいんじゃないの?」病室のベッドで血圧を測られていた隆が締まっていく器具に目をやりながら言った。「そう?変わらないと思うけど」「いや、冷たくなった」隆は血圧を測り終えたレミの手首をつかんだ。「今夜、もう一度しよう。そした...
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短編16 長寿の原人

旅人がその村に着いたのは昼過ぎだった。暑い日差しが照りつけ、ツクツクボウシの鳴き声がハーモニーを奏でている。旅人は湧き水を水筒に入れ、ごくごくと流し込み、喉を動かした。「おー、この辺では見かけんな。旅か」イケメンの青年に声をかけられた。「は...
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短編15 分厚いファイルの中心で

空調の音が低くうなっている。河西は、薄暗い資料室で数冊のファイルを手にした。資料をパラパラとめくる。上司の命令で、膨大な量の資料整理を頼まれた。ここ先週からこの一室から出られない生活が続いている。資料整理とは聞こえがいいが、要するに、主要戦...
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短編14 ジビエのホルモン

それは同僚の安井から聞いた焼き肉屋でのことだった。安井の話では、旬のジビエが食べられるという。調度、時間があったので、夜に、彼女とふたりでそのジビエの焼き肉店に行くことにしたのだ。のれんを手でよけて引き戸を開けると、中年の店員がいらっしゃい...
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短編13 蚊取り家族

大平家は大広間に集まって、家族団らんをしていた。大黒柱の権蔵がのしのしと歩いてきて、上座にドスンと座ると、家族は権蔵の方を見た。「夏菜、お茶くみはいいから座りなさい」長女の夏菜は、湯飲みを権蔵の前に置くと、下座に座った。「今日は、真剣に人類...
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短編12 カエルの恋

アオイドガエルはアカイドガエルと共に井戸を這い上がった。「見ろよ。オレたちの前に新しい世界が広がってるぜ」井戸を登り切るとアカイドガエルは言った。2匹のカエルはぴょんぴょんと跳ねていった。「見ろよ、あれがトンボが言ってた海って奴だぜ」山の中...
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短編11 日曜日よりの

日曜日よりの「うぐいすさん、あなたの番、来ましたよ」北雀うぐいすは、座席の横から、のそっと起きあがって、マイクに手を伸ばした。十八番の『日曜日よりの使者』のイントロが流れてきた。「このまま、どこか遠く、連れてって、くれないか~」半透明なドア...
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短編9 バス停の男と神社の女

そのバス停は神社のそばにあった。その神社は街中にあり、小さな石柱で神域をあらわしており、バス停からは神社の境内の中が見えるのだ。ツンとした臭いが鼻をかすめた。振り向くと、ひとりの中年の女性がバス停のそばを歩き、通り過ぎていった。(3日間はた...
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短編8 八百屋の新婚旅行

その日、八百屋を閉めたのは午前7時半だった。朝の販売は盛況で、野菜はサツマイモ2袋を残して全て売れていたのだ。『しばらく休みます。1週間後、元気にお会いできるのを楽しみにしています』手製の張り紙をシャッターに貼った。八百屋のおやじさんは、い...
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キクシェル短編6 雪の日の足あと

雪が降った。昨日の夜から降り続け、今朝方は真っ白だった。この地方に単身、引っ越してきて、雪が積もるのは初めてのことだ。年甲斐もなく表に出てみる。白い新しい降り積もったばかりの雪が足を踏み出すとギギと音をたてる。ああ、心地よい。新しい雪の独特...