その日、女は夜の武家屋敷のある通りを走っていた。
「い、急いで、知らさなきゃ・・・・・・」
着物の胸から手紙が見え隠れしていた。
桜川幕府と長珠藩との対立は決定的となり、
朝廷のいる命京ではテロ活動が横行し治安は悪化の一途を辿っている。
命京での取り締まりは厳しさを増し、捕縛される攘夷志士も多くあった。
テロ活動を行っている長珠藩士がよく使っている料理屋に女は出稼ぎに来ていたのだった。
夜になって、料理屋にちらほらと数人の攘夷志士が集まってきていた。
「お嬢さんは、異国人は好きかい?」
総髪の着古した着物の志士がお猪口を近づけると、女は、首を振った。
「そうか。なら、わしらの仲間になりぃや」
男は、眼光鋭く、しかし、優しげな表情をみせた。
「お侍さんは、長珠のお方で?」
「まあ、いろんな所のもんがおるが、わしは長珠の村の出じゃ」
宴会場は人が大体揃ったようで、上座に2人座った。
「今日は重要な会があるけぇ、遊んでやれんけど、これ、恋文じゃ」
侍は似つかわしくない笑顔を見せて、女は1階へと降りていった。
宴会場での会は次第に議論も白熱し、3時間に及ぼうとしていた。
料理屋の門を叩く音がした。
「ご用改めである!戸を開けられよ!」
女は2階に走って上がった。
「お侍様方!精選組です!お逃げください!」
何人もの男たちがドカドカと階段を上がってくる音がひびく。
志士たちは慌てて、刀を取り、抜刀した。
「秘密の計画がばれたようだ!」
「女、二階の屋根づたいに逃げて、長珠藩邸へこのことをしらせてくれ。」
「拙者が護衛つかまつる」
「いや、女ひとりの方が気取られまい。走れ !」
入り口の方では斬り合いが始まって刀を合わせる音が聞こえている。
「逃がすな、下に知らせろ!」
精選組はしたにも回り込んでいる。
女はいわれるがまま、屋根づたいに飛び出し、壁際にあった木箱を踏んで地上に降りた。
ちょうど塀のすき間は死角になっており、そこを通って、裏口から出た。
そして、長珠藩邸に向かって走り始めた。
「い、急いで、知らさなきゃ・・・・・・」
長珠藩邸にからがらたどり着いたときには、汗でぐっちょりと着ものがしめっていた。
門番に知らせると顔色を変えて、中に入るようにいい、すばやく門を閉じた。
報告を終え、女が、長珠藩士からもらった恋文を見ると、日皇王拉致の上、官軍を率いて桜川幕府を討伐するといった内容の文言が書かれていた。
女は、こっそり破り捨て、竈にくべた。
2026/04/30 15:03:17 キクシェル

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