短編12 カエルの恋

アオイドガエルはアカイドガエルと共に井戸を這い上がった。

「見ろよ。オレたちの前に新しい世界が広がってるぜ」井戸を登り切るとアカイドガエルは言った。

2匹のカエルはぴょんぴょんと跳ねていった。

「見ろよ、あれがトンボが言ってた海って奴だぜ」山の中腹の石段から望む景色には大きな水たまりが見えた。アオイドガエルは、新しい景色に眼を見開いた。

「これから、オレたちは恋活をする!だろ?」アカイドガエルはアオイドガエルの方を見た。「どうしだんだ、浮かない顔をして」

確かに、井戸の中を出た途端、世界が広がった。アオイドガエルは井戸の中に残してきた女ガエルが気にかかっていた。

「お前を振った女だろ?」アカイドガエルは言った。

「そうなんだが、その女ガエルは世界に唯一の女ガエルなんだ。井戸の中では胆試しなんかもしたりした。ヌルヌルの石の上でいろいろイチャついたし、ふかふかの苔のベッドの上で将来を語ったりしたりしたよ。大切な思い出はたくさんあるんだ」

アオイドガエルの未練たらしい言葉にアカイドガエルは眉間にしわを寄せた。「じゃあ、お前はまた井戸の中に入るのか。あの暗いジメジメした井戸の中に」

アカイドガエルは諭すように、「あのなぁ、いいか、あの女はお前を振ったんだぞ」「大切な彼女の気持ちを大切にするなら、もう忘れて、次の恋に行くんだよ」

「井戸の外には確かに女ガエルはいっぱいいるだろう。でもな・・・・・・」アオイドガエルは後ろを振り返った。

その時ヒョウ柄の女ガエルが通りかかった。「あら、あなたたち、ごきげんいかが」2匹は脈打つ鼓動に、ふいにケロケロと答えた。外来種だ。多分ペットが逃げ出したのだろう。魅惑的すぎる。「この辺りにいい宿無いかしら、ジャンプしすぎて疲れちゃったの」ヒョウガラガエルは甘えるように言った。「あの奥の岩場が湿っててイイカンジですよ」アカイドガエルは興奮していった。「あら、そうなの。どう、あなたたちも一緒に休まない?」「私たちも後から行きますので、お先にどうぞ」「わかった、あんまり待たせないでね」

「おい!チャンスじゃないか。異文化交流できるぞ!」アカイドガエルは興奮してぴょんぴょん跳ねている。「いいのかな、オレたち。固有種だろ」アオイドガエルは横目でアカイドガエルを見た。「バカか、お前は。愛は国境を越えるんだよ」アカイドガエルはいつもより高く跳ねている。「こんなチャンスめったにないぞ」アカイドガエルの言うことはわかっているが、アオイドガエルには井戸に残してきた女がエルのことが気になっていた。

「おれは行くぜ!待ってろヒョウ柄ちゃん!」アカイドガエルはぴょんぴょん跳ねていった。

アオイドガエルも決心して、アカイドガエルが向かった方向へ跳ねた。

アオイドガエルは驚愕した。アカイドガエルがワタリドリに食い散らかされていた。「あなたも来てくれたのね。ワタリドリが食事が欲しいらしいのよ」「私も故郷にに帰らなきゃいけないの。ごめんなさいね♥」

アオイドガエルは思った。井の中の蛙は大海に出たら生きていけないと。だが、それも運命。せめて、ヒョウガラガエルとイチャついてから死のう。「ヒョウガラガエルさん。あなたの国を見てみたい。あなたの生まれ育った国を」ヒョウガラガエルはしばらく考え、アオイドガエルのあごを持った。「あなたよく見るとイケメンね。いいわ。私の国に連れて行ってあげる」

こうして、アオイドガエルはワタリドリに連れられて、大海を渡ったのである。

2024/11/19 19:29:07 キクシェル

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