「レミちゃん、最近冷たいんじゃないの?」
病室のベッドで血圧を測られていた隆が締まっていく器具に目をやりながら言った。
「そう?変わらないと思うけど」
「いや、冷たくなった」
隆は血圧を測り終えたレミの手首をつかんだ。
「今夜、もう一度しよう。そしたら気が変わるだろ」
「島尾さん。放してください。次の患者さんが待っていますので」
そう言うと隆の手を優しくほどいた。
「やっぱり、冷たい。男だろ。男ができたんだろ」
「いいえ。では食事の時間にはデイルームに来てください。では」
「レミちゃん!」
レミは隆の声を遮るように病室の扉を閉めた。
「またあの患者?」
ナースステーションで看護婦の吉田がいった。
「そうなの。もう、いい加減にして欲しい」
レミは自分用のマグカップにティーパックを入れてお湯を入れた。
「菅野さん、あの人と付き合ってたってほんとですか?」
レミはティーパックを上下に揺さぶっている。
「知ってたんだ。あの男はやっぱりおしゃべり」
吉田はクッキーをレミに渡した。
「2ヶ月も前の話。夜中にナースコールが鳴ったから様子を見にいったの」
吉田はクッキーをかじりながら興味深そうに聴いている。
「そしたら、急にキスされて」
吉田は笑い出した。
「前みたいに殴らなかったんですか?」
「私もあの件以来、反省してるの。あの時、看護師長にもめっちゃ怒られたんだから」
「その話はあちこちで聴いてます」
レミはマグカップに温度を探るように口をつけた。
「キスされるなんて思わないから、ちょっとドキッとしてしまったの。不覚にも」
吉田はニヤニヤしたままクッキーをもぐもぐとかんでいる。
「そこからは、ちょっと意識するようになって、仲良くなっていった」
レミはクッキーを少しかじった。
「でも、あの人、病棟でいつもしたがるのよ」
吉田は笑いをこらえきれず吹き出した。
「菅野さん、病棟で何してるんですか!」
レミはマグカップを口につけた。
「恋愛よ。恋愛。でもね、だんだん冷めちゃって」
「そういえば、あの患者、他の患者と暴力沙汰じゃなかったでしたっけ」
「そうなのよ。だから、最近は冷たくしてるの」
「それがいいですよ。近々転院らしいです」
「そうなの・・・・・・」
レミが夜勤の日、隆は転院した。
あっけなく終わった恋だった。
消灯後、誰もいなくなったデイルームにレミが夜食のプリンを持ち込んでいた。
相手に希望を失わせることなく、自分も傷つかない。
今日もいい仕事をした。
レミは早朝まで頑張るため、今はご褒美のプリンを味わうのであった。
2025/4/4 4:54:52 キクシェル
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今回の5つの言葉は、『愛情がついえたとき、若く見える看護婦さんが、コミュニティスペースで、プリンを食べた』でした。
これを見たとき、まず思ったのが、看護婦さんがコミュニティスペースでプリンを食べるというところから、ご褒美のプリンだろうな、と想像しました。
そこからイメージを膨らませて、愛情がついえたときとあったので、ロマンスの陰りを入れよう、ということで書きました。
楽しんでもらえたら光栄です。
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