キクシェル短編6 雪の日の足あと

雪が降った。

昨日の夜から降り続け、今朝方は真っ白だった。

この地方に単身、引っ越してきて、雪が積もるのは初めてのことだ。
年甲斐もなく表に出てみる。
白い新しい降り積もったばかりの雪が足を踏み出すとギギと音をたてる。
ああ、心地よい。
新しい雪の独特の踏みしめる感触は童心を思いだす。
楽しみながら、付近を散歩する。

足跡がついていた。
朝方につけたものだろうか。
降り積もっていく雪でうっすらとしか見えない。
なぜだか、不思議な感じがした。

「何だこの感覚は・・・・・・」

足跡を辿ることにした。
途中、足を滑らしたのか、足あとがずるりと伸びた。

「どうやら、こけていないようだ。よかった」

足あとは街を出て、山裾の方へ向かっている。

「ここまで来たから最後まで行ってみるか・・・・・・」

足あとは山の中に入っていく。
木々や草には3cmほど雪が積もっている。

雪も振り方を強め、少し心細くなってきた。

「こんな所に住むと大変だな」

気づけば下ばかり見ていた。

足あとが止まった。

「着いたのか?」

顔を上げると目を見ひらき、白い息が出るのも忘れた。

「神社だ・・・・・・」

そこには、雪でできた神社があった。

雪でできた段を上り、境内らしき所に入る。
雪でできた鳥居に雪でできた社殿。
白で統一された神社は何一つ穢れなく神々しく見えた。
あまりに感動し、柏手を打って、この今日の出会いに感謝を告げた。

「雪の神が来たんですなぁ」

声がした方をふりむくと、ニット帽とマフラーをした臙脂色のセーターを着た老人が後ろに手をやって立っていた。

「あなたが作られたんですか?」

「いいえいいえ、神様が自然にお作りになる。この山の冬に一度しか現れない神社でしてなぁ。」

「この神社を神様が作ったんですか?」

「ええ。不思議なことが起こるものですなぁ」

「にわかに信じられません」

「雪の神様がいらっしゃると幸福が訪れると言われておりましてな。これもなにかのご縁。うちによっていきなぁ」

雪の神社の下の細い山道を脇に入ると雪に少し埋もれた民家があった。
老人は、石油ストーブにやかんをかけ、湯を沸かした。
同い年ぐらいの女性がお茶を入れた。

「寒かったでしょう?雪の神様に会えるなんてとても幸運ですね」

とても優しい穏やかな声だ。

(娘さんかな。素敵な女性だな)

「この辺りはなかなか人も訪れないのでなぁ。あんた、独身か?」

曖昧な返事をして、お茶を飲んだ。

「うちの娘と結婚せんか?」

雪の日の温かいお茶が身に染みわたった。

2025/02/07 12:08:18 キクシェル

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