短編9 バス停の男と神社の女

そのバス停は神社のそばにあった。

その神社は街中にあり、小さな石柱で神域をあらわしており、バス停からは神社の境内の中が見えるのだ。

ツンとした臭いが鼻をかすめた。

振り向くと、ひとりの中年の女性がバス停のそばを歩き、通り過ぎていった。

(3日間はたってるな)

そう思い、女性の動向を追った。

女性は、神社の鳥居の前で一礼をし、手水舎で両手と口を浄めている。

(浄めるなら風呂入った方がいいんじゃないか)

女性は、作法どおりに参拝を済ませた。

(作法もきちんとしているし、神様もかたくるしいことは言わないのかもしれないな)

なにか「ゆるし」ということの意味がわかりかけた気がした。

そうして、腕時計を見ると、バス停の時刻表より2分遅れていた。

(人間のすることだからな・・・・・・・)

もうしばらく待つかと、気長になれたのもあの女性のおかげかもしれない。

(え?なんだこの声は?)

古事記の上巻の冒頭が聞こえてきた。

声のする方を振り向いてみると、先ほどの女性が、古事記を暗唱しているではないか。

(ただの女性じゃなかったか・・・・・・)

日本の神々の歴史がわかる最古の歴史書。

それを暗唱するなんて。

自分には到底できないが、でも、神様方には感謝している。

その女性の神への感謝の気持ちの表れなのかもしれない。

男は、神社に向かって感謝の気持ちを念じた。

バスが5分遅れて到着し、男は乗り込んだ。

中年の女性は、空を見あげ、両手を合わせていた。

2025/02/17 09:16:57 キクシェル

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