そのバス停は神社のそばにあった。
その神社は街中にあり、小さな石柱で神域をあらわしており、バス停からは神社の境内の中が見えるのだ。
ツンとした臭いが鼻をかすめた。
振り向くと、ひとりの中年の女性がバス停のそばを歩き、通り過ぎていった。
(3日間はたってるな)
そう思い、女性の動向を追った。
女性は、神社の鳥居の前で一礼をし、手水舎で両手と口を浄めている。
(浄めるなら風呂入った方がいいんじゃないか)
女性は、作法どおりに参拝を済ませた。
(作法もきちんとしているし、神様もかたくるしいことは言わないのかもしれないな)
なにか「ゆるし」ということの意味がわかりかけた気がした。
そうして、腕時計を見ると、バス停の時刻表より2分遅れていた。
(人間のすることだからな・・・・・・・)
もうしばらく待つかと、気長になれたのもあの女性のおかげかもしれない。
(え?なんだこの声は?)
古事記の上巻の冒頭が聞こえてきた。
声のする方を振り向いてみると、先ほどの女性が、古事記を暗唱しているではないか。
(ただの女性じゃなかったか・・・・・・)
日本の神々の歴史がわかる最古の歴史書。
それを暗唱するなんて。
自分には到底できないが、でも、神様方には感謝している。
その女性の神への感謝の気持ちの表れなのかもしれない。
男は、神社に向かって感謝の気持ちを念じた。
バスが5分遅れて到着し、男は乗り込んだ。
中年の女性は、空を見あげ、両手を合わせていた。
2025/02/17 09:16:57 キクシェル
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