『赤き泉と少年王』(短編)

『赤き泉と少年王』

 かつて、アズラーン王国の北端に、アリヤという小さな村があった。

 その村にはひとつ、不思議な泉があると語られていた。「赤き泉」と呼ばれるその泉は、ひとたび覗き込めば、心に潜む欲望が形になって現れ、それに打ち勝てねば永遠に虜になるという。

 少年・リュカはその村の木こりの子として生まれ、何不自由なく育っていた。だが、ある年の夏、村にやってきた若い旅の教師――白いドレスに編み上げ髪の女性を見て、彼の中で何かが目を覚ました。

 そのときリュカはまだ七歳だった。

 無意識のまま、彼は彼女の動きを目で追い、教室の床に寝そべり、机の下からスカートの奥を覗こうとした。大人たちは「いたずら」として叱ったが、リュカの心の中にはその日から、奇妙な火種が灯り続けることになった。

 歳を重ねるごとに、それは静かに、しかし強く燃えていった。

 十六のとき、リュカは「王の学び舎」と呼ばれる都市の学院に入った。魔法と哲学と政治学を学ぶ若き秀才たちの場だ。リュカもその一人だったが、彼の眼差しはいつもどこか、女性の身体を漂っていた。

 やがて、ひとりの女性と出会う。名はルナ。軽やかな笑い方をする瞳の大きな娘で、彼女と過ごす時間は、リュカに初めて「誰かを好きになる喜び」を教えてくれた。

 二人は夜を重ねた。

 しかし、ある晩。ルナはリュカの腕の中で、静かに囁いた。

「赤ちゃんが、できたかもしれない」

 リュカの身体から血の気が引いた。

「……待って。今はまだ学生だ。今産んでも、誰も助けてくれない。お願いだ、どうか……」

 リュカは何度も頭を下げ、涙を浮かべ、命を諦めることを頼んだ。ルナは何も言わず、ただひとりで姿を消した。

 それから、彼の人生は音をたてて崩れていく。

 学び舎では噂が立ち、教授たちは彼を遠巻きに見るようになった。親からの援助も絶たれ、街の宿から追い出され、職もつかず、彼は放浪するようになった。

 自分の欲がまねいたこと、自分が命の重さから逃げたこと。その事実が、彼の心を腐らせた。

 ある嵐の晩、野営の最中、彼は森の奥でひとつの赤い光を見た。

 赤き泉――村で昔、言い伝えに聞いたその名前が、脳裏に浮かぶ。

(あれは……)

 泉の縁に立つと、そこには紅く光る水が鏡のように広がっていた。

 のぞき込むと、そこに映ったのは、七歳の頃の自分。スカートの下をのぞこうとして、叱られている小さな自分。つづいて、ルナの腹を前に、顔をそむける自分。最後に、今の自分。誰も信じず、愛さず、ただ乾いた目で世の中をにらんでいる姿。

 そのとき、泉からぬるりと現れたのは、自分と瓜ふたつの「黒衣の王子」だった。

「おまえの欲望、育ててやったのはこの泉だ。さあ、過去も悔いも捨てよ。我が従者となれば、世界のすべての快楽を与えてやろう」

 リュカは目を伏せた。魅力的な誘いだった。だが――

「……俺は、お前に命を与えられたんじゃない。俺は、俺自身が欲望を育ててしまったんだ」

 そして彼は言った。

「お前を受け入れたら、また誰かを失う。ルナのことも、命のことも……たぶんもう、取り返しはつかない。でも、自分のことは……今からでも変えられるかもしれない」

 黒衣の王子は静かに笑い、姿を消した。

 泉の水面は元に戻り、赤い光は闇の中に消えた。

* * *

 数年後。

 リュカは町の小さな図書館で働いていた。目立たない場所だが、心は落ち着いていた。

 ある日、ひとりの女性がやってきた。旅の医者だという。笑ったとき、目じりがすこし下がるのが印象的な、静かな人だった。

 読書の話、傷の話、命の話――ふたりは何度も話し合った。ある夜、彼は正直に過去のことを話した。

「……過去に、命を守れなかったことがあるんです。言い訳をして、逃げました」

 彼女は黙って聞いていた。

 そしてこう言った。

「大切なのは、何を見つめなおしたか。あなたは泉をのぞいたんでしょう? だから今、こうしている。わたしは、そういう人が信じられる」

 やがて、ふたりは夫婦になった。

 庭に、ふたりで小さな泉を掘った。赤くはなかった。だが、その水面にうつるふたりの姿は、たしかに過去とは違っていた。

「過ちのあとにこそ、本当の愛は育つ。」

それは、赤き泉をのぞいた者だけが知る、真実だった。

【教訓】
ほんとうの愛は、欲を越えた先にある。
欲に振り回されたとしても、
正直に向き合い、誰かと向き合えば、
人生はやり直すことができる。

著 キクシェル×ChatGPT

創作秘話

 これは、最近見つけた無料でできる遊びの一環です。自分が見つけた教訓をファンタジーでChatGPTで短編化するという遊びです。

  ChatGPTからはこのようなことを言われています。『キクシェルの武器は回復経験を創作に昇華する力です』と。

 この遊びの良いところは、作品化されることによって、ちょっと浄化される感覚があります。ひどい表現はChatGPTは受けつけないし、教訓を書けば、その教訓をテーマに物語を構成してくれる優秀なAIです。

 女性は大切にしなければなりませんね。本当にそう思います。

2025/07/26 23:52:50 キクシェル

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