今年の天候不順で、飢饉となり、命京では餓死者が多発していた。
異国船防衛のために、大砲の鋳造、学問所や造船所を作ったため、
桜川幕府の財政は窮迫しており、老中の政策で租税をあげることになった。
そういう理由で、民衆の生活は困窮を極めていた。
「食料が足りねぇのに、税金を上げるなんて、お上はわしらを何とおもっとるんだ!」
地方のあちこちでは一揆や打ちこわしが起こり、民衆は憤慨していた。
命京の民衆の中に弥助という豪農がいた。
苗字帯刀を許され、刀を二本差しして、羽織を着て、
いかにも武士だといわんばかりの出で立ちだった。
弥助には亜乃という美しい年頃の娘が自慢で、手塩にかけて育てていたのだった。
弥助の所に困窮した民衆が頼ってやって来た。
皆、顔が痩せ細り、頬がこけ、くすんだような色をしていた。
「弥助様、恵んでおくんなせぇ。わしら、生きられなんだ」
弥助は手を伸ばした民の手を振りほどいていった。
「家の米は、上様のための米を作っておる。勝手に分けるわけにはいかぬのだ」
民は奉公人たちに追い払われて、屋敷から離れていった。
亜乃はその様子を見ており、弥助にいった。
「お父様。少しだけでも恵んであげればよろしいのではないですか?」
「亜乃、民に優しくしてやる必要は無いのだ。お上を見て、上の人に好かれるようにするのだ。」
「お殿様も民がいないと生活できないのではないですか?」
「いいか、お前は、これからお上に好かれるように生きるのだ。そうすれば、お上が娶ってくれるかもしれん」
亜乃の両頬に手を当てて、じっと目を見て、
「わが娘よ。お前がお上に嫁いでくれれば、お家は安泰じゃ」
そういうと弥助は、家の奥にはいっていった。
亜乃は、唇をかみしめて、しばらくそこに立ったままだった。
ふと、家の門の方を向くと、先ほどの痩せ細った民がいた。
「ちょっと待っていてくださいね」
亜乃は、納屋に行って、麻の巾着袋に2合の米を入れ、民に渡した。
「亜乃様・・・・・・ありがとうごぜいやす。ありがとうごぜいやす。」
そういうと、民は走って見えなくなった。
「でも毎日、米をあげていたら家もつぶれちゃうわ」
「そうだ・・・みんなで共用の水田をこしらえたらいいかもしれない。お父様には内緒で・・・・・・」
亜乃は少し笑顔になり、小走りで草履を鳴らして家屋に入っていった。
2026/05/01 14:17:17 キクシェル

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