その日は薄曇りで、雨も今にも降り出しそうであった。
午の刻(11時から13時)、ひとりの浪士が大商人、白神石小次郎の邸宅に入って行った。
中には、毘南傳七郎(びなんでんじろう)、阿賀熊剛三(あがくまごうぞう)、空雷燕秀(くうらいえんしゅう)の三人と何人か料理を前に座っている。
「殿坂猿(とのさかましら)ともうす」
「ましらか! はよ、座れ!」
阿賀熊はそういうと、前から座っていた侍に隣の席を空けるようにいった。
「何じゃかしこまって、大役でも仰せつかったか」
空雷は冷やかし半分に笑った。
殿坂は着物の袖口を一度直して、阿賀熊のとなりに座った。
「何か重要な動きがあったのであろう」
毘南は煮魚を箸で切り分け口に運んだ。
「どうやら、西華帝国の奴らも操られているようだ」
「異国の奴らが何に操られておるというのじゃ」
空雷は、おしぼりで口を拭いた。
「これだ・・・・・・」
殿坂は大判の金を出した。
「なんと、金に操られていると? はは、愚かな連中だ」
阿賀熊は大きな声で笑って、猪口の酒をぐいと飲んだ。
「クマ、違う。よく見てくれ。ここだ」
大判には三角形に大きな耳がかかれていた。
「これは何じゃ? 見たことがないのう」
空雷は興味深そうに大判を見た。
「これが奴らを操っている正体だ。こいつらが西華帝国を実質的に支配している」
3人はふっと吹き出した。
「ましら。誰の情報だ?」
「異国の歴史学者です。栄都で私塾を開いておりますが、知識には定評があります」
「ましら、人を信用するのはお前のよいところでもあるが、ガセには気をつけなければならん」
阿賀熊はそういって、ポンポンと殿坂の肩を叩いた。
「クマ! 疑うのか? こいつらは、西華帝国の金融を牛耳っているという。いずれ、我が国にも、牙を向けるぞ」
殿坂は、口角泡を飛ばした。
毘南は立ちあがって、首を傾けて、首筋を伸ばしながら、
「その時は、斬り捨てる。それだけだ」
殿坂は毘南の胸ぐらをつかんで、
「あのな、こいつらは金や支配のためなら何でもやるクソ野郎なんだよ。気づいたときには手の討ちようがないことになる」
「じゃあ、ましら殿はどうすればいいと思っているのじゃ?」
空雷は箸を置いて尋ねた
「西華帝国に乗り込んで、このマークの家の一家を惨殺する」
「それはできんだろう。わが国力を見て見よ。奴らの軍事技術は我らを完全に凌駕しておる。というより、義に反する。そして、西華帝国の兵器は非人道的な殺戮兵器だ。何千万もの魔森の先住民を殺したと聞いている。金融を牛耳るなら軍隊も操れるのだろう」
「では、どうすれば、いいというのだ!」
「この事実を多くの人民に知らせよう。そうすることで、三角耳の陰謀を阻止できるかもしれん」
「では、三角耳の陰謀を世に流布するよう調査を開始する」
殿坂はそういうと、毘南の襟を正してあげ、頭を下げた。
「ましら、お前のいうことが正しければ、奴らはこの世界に食い込んでいる。気をつけろ」
「三角耳のことは伏せておきましょう。これからは、耳くそと呼びましょう」
「それがよい。ましら、急ぎ耳くそのことを、隊長へ知らせてくれ」
殿坂は、一礼し、海老の天ぷらをつまんで、
「これぐらい食べさせてもらう」
といって、口に入れ、そそくさとふすまを開けて外に出て行った。
「ましららしいな」
毘南がいうと、阿賀熊はガハハと笑って、お猪口に酒をついだ。

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