栄都も涼しくなり、川原にはススキが生え、夜風に揺れている。
渡し船の船頭が、ひとりの侍を岸に渡した。
侍は六文銭を手渡し、川岸を上ると、武家屋敷の住宅地にはいっていく。
くの字に曲がった土壁に身を隠し、被り傘でぐいと顔を隠した。
しばらくすると、提灯の明かりが3つ見えた。
「いやはや、クソみたいな女子がおるもんじゃのう」
「いやー、まことに」
「今日の亜乃とか言う芸者はひどいもんじゃった」
「のう」
3人はガハハと笑いながらくの字の曲がり角の方へ近づいている。
侍は、じっと3人の顔を確認し、少し笑った。
(亜乃・・・・・・ついにこの日が来た)
曲がり角まであと2歩という所で、侍は飛び出し、居合いでひとりの胴を打ち抜いた。
「ぐわっ」
男は提灯を落とし、膝を折って倒れた。
すぐさま2撃目を2人目の頭に振り下ろした。
頭をよけたが、首に刀が掛かり袈裟斬りになり、刀に手をやったまま抜きかけの刀と共に、倒れ込んだ。
3人目は抜刀し、かろうじて構えの体勢に入った。
「何やつ !」
「亜乃をお慕いしている馬鹿者とはオレのことだ」
3人目の武士は、恐怖に驚いた表情を見せ、震えながら言った。
「亜乃をいじめ、批判する者をことごとく斬り殺すという、伝説の人斬り、亜乃侍か !」
武士は刀を中段に構えた。
「亜乃のために生き、亜乃のために死ぬ。そんな男に名前などない」
「ならば名前のないまま死なせてやろう」
武士は、にやりと笑った。
「そうだ、いいことを教えてやる。今日、亜乃と寝たぞ。みんなでな!大層な声をする女だ。とてもブスな喘ぎ超えだったよ !」
侍は表情を変えず、
「亜乃のため生きる男がひとりぐらいいてよかろう」
そういって武士に斬りかかった。
3合ほど刀を打ち合わせて、武士は左腕を大きく切られ、背中を斜めに切られた。
「ぐうっ」
だらりと垂れた左腕のまま武士は倒れ込んだ。
背中には大きな刀傷が血を吹き出していた。
「そのような腕で武士をやっておるとは。背中まで切られて、恥ずかしくないのか?」
「・・・なにぉお・・・・・・」
「心配することはない。亜乃さんが生きていれば、この世には何も要らない」
「求められもせず・・・・・・ただ、復讐のために命を使うことがお前の・・・・・・・」
侍は屈辱の表情を見せた武士の心臓を突き刺し、刀を拭いた。
武士は事切れ、動きを止めた。
侍は、『愛誅』の斬奸状を残して、武家屋敷を後にした。
2026/05/08 15:44:08 キクシェル

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