その頃の命京では、天誅が横行し、治安が悪化していた。
役人の、島村川伝七郎(しまむらかわでんしちろう)は仲間と一緒に市中を歩いていた。
「伝さん、この国はどうなりますかな」
「そうだのう」
帝国の黒船来航、日西魔森焼却条約の締結、密勅、江井の大獄の一連の流れにより怒り狂った尊王攘夷の志士たちが殺気立っているのはわかっていた。
「お上も一生懸命対応しておられる。我らはそれに従うまでじゃ」
「伝さんは魔森のことを知っておられますか?」
「ああ、洋学を学んだ時にすこし聞きかじったのう」
大陸で拡大している生態系があり、竜魔獣という怪物が巣くっているという。その生態系のことを人々は魔森と呼んでいるのであった。
「私も、学者に聞いた話ですが、西華帝国は、魔森の焼却をし、先住民を虐殺しているといいます。われらも侵略されることはありますまいか・・・・・・」
「・・・・・・それはわからん。だからこそ、お上も洋学研究所や造船所を作っておるのだろう」
「間に合いますか?」
「やれるだけのことをやるだけだ」
伝七郎たちは、街の角を曲がったところで、飲み屋街のある命京東通りにでた。
「伝さん、あの男・・・・・・」
筋骨逞しい着流しの男が酒瓶をぶら下げて歩いていた。
「林田嘉平(はやしだかへい)です !」
嘉平は振り向いて、
「おぉ? 役人か。ご苦労さん」
伝七郎たちは嘉平の側に走り寄った。
「何か情報はないか?」
嘉平はがぶがぶと酒瓶を傾けて飲んで、ふぅーと息を吐いた。
「長珠藩の浪人か藩士かしらんが、長珠人が出入りしている店があるぜ」
「教えてくれ」
嘉平はにやりと笑い、左手の平を上に向けて金をせびるように伝七郎の前に出した。
「最近は酒代も高くってな。お役人のおかげで生きづらい世の中になっちまってな」
伝七郎は、銀貨をいくつか手渡した。
「下山通りの深山屋に集まってるって聞いたぜ」
「わかった。飲み過ぎには気をつけろ」
伝七郎達は、下山通りの方に走っていった。
走り去る伝七郎を嘉平は酒を飲みながら見ていた。
「ま、そんな店ねぇんだけどな。がははははは」
嘉平は大声で笑いながら、飲み屋街を歩いていった。
2026/05/09 20:26:05 キクシェル

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