夏の初め、遠藤が朝方出かけていったのは献残屋(けんざんや)だった。
献残屋とは、贈答品を転売する業者のことで、長持ちする高級な食品や、上がり太刀という贈答用の木刀を扱っていた。
「主人はいるか?」
遠藤嘉実(えんどうよしみ)は、店の中に入ると主人が返事をした。
「太刀はあるか」
「うちは贈答用の太刀ならございます」
主人は遠藤にいくつかの太刀を見せた。
「真剣はあるか」
主人はこめかみをきながら、
「あるにはあるのですが・・・・・・」
「持ってきてくれ」
はい、と返事をして、主人は刀を取りに店の奥に入って行った。しばらくして、主人は刀を持って戻ってきた。
「竜魔獣の甲皮を斬ることができると絶賛された、永翁竜徹(ながおさりゅうてつ)です。戦国期の名刀匠、永翁陸羽(りくう)の作です」
「永翁竜徹・・・・・・」
遠藤は主人から刀を受け取った。
「ただ・・・・・・この刀、いわくつきでして」
遠藤は鞘から刀身を出し、刀の反りをみている。
「前の所有者が桜川篤真(さくらがわとくま)将軍だったのですが、浪人に斬られ、その傷が元でなくなるという不幸な事件がありまして、それで、ここに売られたという経緯がございます」
「いわくというほどのことでもないのではないか?」
「将軍が浪人に斬られるということ自体がかなり稀な事件ですので、不幸を呼ぶのではないかとされておるのでございましょう」
「なるほどのう・・・・・・」
遠藤はひとしきり刀を調べると、刀を鞘に戻した。
「この刀、売ってはもらえんか?」
「不幸が訪れると申しましたが、それでもよいのでしょうか?」
「心配は無用だ。幸も不幸も生き方の問題だ。この刀のせいではあるまい」
「お侍様がそうおっしゃられるなら、お売りいたしましょう」
遠藤は小判を十数枚渡して、永翁竜徹を腰に差した。
「また、掘り出し物があったら教えてくれ」
「まいど、ありがとうございます」
主人がそう言うと、遠藤は店の外に出た。
これから、将軍の護衛のための栄都浪士組に入ると思うと、胸が高まるばかりだった。
2026/05/13 8:55:51 キクシェル

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